帰省(BITTER編)

プレッシャーで風邪をひいたりした4年ぶりの帰省である。恐れていたほどは何もなく、ちゃんと横浜の狭いマンションに帰って元気に長時間通勤の日々だ。

実家はそこそこ広くて、それより広い庭がある。予想通り、通路だった部分にも草木が生えてもはや庭とは言えない何かになっていた。松の木は適当な業者を剪定に呼んだらしく、てっぺんが切られているまぬけな姿だし。ちゃんと手をかけられない贅沢の象徴は、本当に貧乏くさい。

妹は風邪だとかで、私の滞在期間中ほとんどパジャマでロクに食わず寝てばかりいた。年に一度程度ではなく月イチでこんな感じ。気を遣いまくりかいがいしく世話する母。二人の愛か依存かよくわからない強い絆から、弾き出されてよかった。まあ、バカにされる対象として居座り続ける道もあったのだろうが、幸か不幸か自立する力があったから家を捨ててしまった。

市内の別の場所にいる父に会いに行ったときは、母に角が立たぬよう市街地までバスで出てそこからタクシーを使った。タクシーの運転手は今思えば割と失礼で、「お姉さんこっちの人?」「えぇ、まさか娘じゃないよね?」「(娘だというと)あそこのセンセイと年合わなくない?」センセイの息子の娘だよ。
その後はセンセイが各地に愛人を囲っていたという素敵な昔話が。一応孫に向かってそういう話するか。しかし血縁関係もケムに巻くと、出張なんとかの人と思われていたかもしれない。
父はこの前会った8年ほど前より、当たり前だが老人になっていた。おかげで視覚的に自分に似ている部分はほぼなくて、だいぶ楽。
前会った時より私がだいぶ社会性のある様子をして、彼に何も期待しないから笑顔で温厚にしゃべるので安心か圧倒かを感じたらしく、お決まりの「お母さんに似てる」「痩せたな」に続いては「モデルになれるんでないか」と来たもんだ。あなたが親の時点でそんなにルックスに恵まれているわけないだろう。身内の贔屓目ってこわい。

街は本当に歩いてる人がいなくて、夜6時代には危険を感じるほど暗くなる。これでも近隣の市からお買い物に来る程度の規模ではあるのだが。
やっぱり、どんな苦しい思いをしてもあそこに住み続けるよりはマシだ。